大口病院殺人看護師事件から思う「サイコパス」
https://www.fnn.jp/posts/00395987CX
元看護師「死刑覚悟」「10人以上に」 点滴に消毒液 ニュースより
患者の健康、ひいては命を預かる立場である看護師がこのような凶行に及んだとする(本人は殺害を認めているが、裁判で確定していないためあえて断定はしない)のは衝撃的なニュースである。この事件以前に小学校や障害者施設が襲撃される事件もあったが、病院でもこのような事件が起こるのなら、安全な施設というものはもはや存在しないのかもしれない。
しかし、私が気になったのは、この容疑者の動機や犯行内容についてではない。まとめサイトでこのニュースを見ていると、何度も同じ言葉が出てくる。
それは「サイコパス」という言葉である。
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サイコパスとは、ロバート・D・ヘアの定義によると
・良心が異常に欠如している
・他者に冷淡で共感しない
・慢性的に平然と嘘をつく
・行動に対する責任が全く取れない
・罪悪感が皆無
・自尊心が過大で自己中心的
・口が達者で表面は魅力的
ケヴィン・ダットンによると主な特徴は、
・極端な冷酷さ
・無慈悲
・エゴイズム
・感情の欠如
・結果至上主義
現状では、チェックリストのみが診断基準であるので医学的にサイコパスと同じ状態であっても反社会性がなければサイコパスとはならない。(Wikipedia「サイコパス」より省略・改変)
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容疑者は、「自分が当番のときに患者に死なれたくなかった。遺族への説明が面倒だった。」という意味合いの自供をしている。自分の担当の時間でないときに死亡するように計画的に犯罪を遂行したようである。
そしてこの自供を元に容疑者はサイコパスだ、との書き込みが成されている。
確かにこの発言を聞くと、良心が欠如している、冷酷だ、自己中心的で人命を軽んじているから反社会的だという考えられなくもない。
しかし、面倒だ、というのは感情が欠如しているからではないし、逮捕を受け入れこのような発言をしていることに責任が全く取れない訳ではない証拠ではないだろうか。
それぞれの項目で考えると、
・良心が異常に欠如している→〇(何をもって「異常」なのかはわからない)
・他者に冷淡で共感しない→〇(共感しないかどうかはわからない)
・慢性的に平然と嘘をつく→?(不明)
・行動に対する責任が全く取れない→×(逮捕には応じているし、死刑を望んでいる)
・罪悪感が皆無→×(同上)
・自尊心が過大で自己中心的→△(自尊心が課題かどうか不明)
・口が達者で表面は魅力的→?(不明)
・極端な冷酷さ→〇(極端かどうか?)
・無慈悲→△(苦しませる意図はなさそう)
・エゴイズム→〇
・感情の欠如→×
・結果至上主義→〇(至上かどうかはわからないが、確実に結果を出そうとしているようには見える)
二人の定義・特徴を合わせた12項目のうち、〇は5つ、△は2つ、×は3つ、?は2つになった。この定義を全て満たす必要があるのか、過半数ならいいのか……。容疑者の自供・発言は心から出たものだと信頼できるのか。そもそも医者でもない人間が判断することはできるのか。考慮の余地があることは明白であるが、それは専門家が判断すべべきことであり、素人ができるのは考えを広げることだけである。
では、結局何が言いたいのか。この「サイコパス」という言葉を、単なるレッテル張りに用いてしまう浅慮な人間の増加と、正しい意味を奪われ非常に曖昧で浅い言葉になってしまうことが残念なのである。
人間は考える生き物である。考えを止めた人間は人間ではない。また、言葉は道具である。道具は正しく使ってこそ価値がある(なお、私は言葉の誤用や意味の変化を完全否定するつもりはない。これに関しては、また機会があれば書き記すこととしたい)。
余談だが、犯人のこの心境はこの環境(労働時間、責任の重さ、給与、閉鎖性)で働き続ければ割と起こりえる話だと思う。それは私自身にサイコパスの素質があるのかもしれないが、看護師を聖職として神格化している前提があるからではないだろうか。私からすれば、このような環境を放置・容認する経営者・政治家・マスコミ・国民性の方がよほど狂っているだと思うのだが……。社会性は多数派、力の強い者が作るものだから仕方がないのかもしれないが、そうだとすればこのような事件は今後も減ることはないだろう。